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EVENT SEMINAR 2025.11.25

第17回ウェルビーイングラウンジ「食事と健康とを科学する栄養疫学のエビデンス・・功罪と罠」

第17回ウェルビーイングラウンジ「食事と健康とを科学する栄養疫学のエビデンス・・功罪と罠」

第17回ウェルビーイングラウンジ 

場所:東京科学大学 湯島キャンパス 1号館9階 特別講堂

日時:2025年11月17日 16:00-18:00

第17回ウェルビーイングラウンジでは、ケンブリッジ大学の今村文昭先生をお招きし、「食事と健康とを科学する栄養疫学のエビデンス・・功罪と罠」をテーマにご講演いただきました。

今村先生は、栄養と健康の関連について調べる栄養疫学の専門家であり、世界をリードしてこられています。日々の食事は健康に大きな影響を与えますが、世の中には栄養や健康に関する情報があふれ、何が本当に正しいのか迷うこともあります。今回は、世界最先端の栄養疫学研究を通じて、「科学的に信頼できる情報とは何か」「私たちはどんな視点で食と健康を考えれば良いのか」をご講演いただきました。

以下にご講演の内容を簡単にまとめます。

アメリカの栄養学会・栄養士学会では、メタ解析の論文がとても増えていることを注視されていて、警戒心が強くなっているとのことです。Global Burdens of Diseasesのリスクファクターとして、Dietが二番目に疾病に関与していることが示唆されています。しかしながら、政策的に介入が難しい分野です。その理由として、誰もが何らかの曝露があること、生涯的な曝露であること、多次元(頻度・程度・期間)であること、また健康との関連が線形ではなく様々な状況が考えられるなど、非常に複雑であることが考えられます。

次に、栄養疫学のメタ解析論文についてお話しいただきました。メタ解析論文は「がん化」していると表現されているぐらい増えています。栄養疫学に関するメタ解析は年間約3000本が発表されています。

メタ解析論文の問題点としては、同じトピックについて複数の論文が存在すること、利益相反、情報抽出・解析の妥当性の問題があります。同じトピックについて複数の論文が存在するという問題について、加糖飲料水と肥満との関係を系統的レビューが18本あることをご紹介いただきました。同じテーマのメタ解析であるにも関わらず、結論がそれぞれ異なり、企業からスポンサーを受けている著者ほど「関連なし」という結論を下す傾向があるとのことです。

情報抽出に関する問題として、メタ解析の論文をさらにメタ解析されていた、という事例をご紹介いただきました。さらに、読み間違い、単位換算の誤り、ランダム化比較試験がクロスオーバーRCTとパラレルRCTの違いを考慮していない、などが発見されました。ミスが非常に多いため、発表前の段階で査読者がミスを発見しRejectすべき案件でしたが、再解析後に結果は変わらずに報告されました。

栄養疫学の論文は医学系だけではなく、non-medical journalsでも発表されるため、PRISMA statementなどのガイドラインがあるにも関わらず、標準化されていないという問題が発生しているとのことです。このように様々な問題が存在していますが、研究者サイドとして、査読プロセスの改善が急務であり、ガイドラインの策定等を行うことで質の向上を目指すことが非常に重要であるとお話しいただきました。

次に栄養疫学のエビデンスとして、集団間のばらつきの重要性のお話がされました。研究方法の違いによる真の異質性は軽減したいものであり、生物学上起こり植える真の異質性は受け入れるべきであり、明らかにするべきものです。

例として、メタ解析の結果として、赤肉の摂取が多い人たちは2型糖尿病の発症リスクが高いことがしめされましたが、集団のばらつきを加味した予測区間(prediction interval)を調べると、12%の集団には効果がなさそうであることがわかりました。今後は、この効果が期待できる・できない集団の特性や条件を明らかにする precision prevention/public healthが大事であると示唆されました。

栄養疫学では小さな効果しか得られないこともありますが、集団への介入を行うとしたら、何千万人、何億人にたいして効果がある可能性があります。EBMを理解できるひとだけが健康になる社会だとしたら、健康格差の拡大に繋がる可能性があります。食事と健康の関連の情報は世の中にあふれていて、取捨選択することは難しいです。確かなEvidenceがある情報を伝えることは大事ですが、行動変容を促す方法としてどのような方法が正しいのかについてのEvidenceは未だ存在せず、情報発信の重要性と難しさについてご講義いただきました。

質疑応答の時間では会場・オンライン双方から多くの質問が寄せられ、活発なディスカッションが行われました。

今回の講演は現地参加者が約50名、オンラインで150名を超える方にご参加いただけました。また、講演後には東京科学大学湯島キャンパス M&Dタワー26階ファカルティラウンジにて、懇親会を開催しました。