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第9回ウェルビーイングラウンジ「メタボリックドミノの未病医療と腸のウェルビーイング -老化負債返済・幸福寿命延伸を目指して-」

第9回ウェルビーイングラウンジ「メタボリックドミノの未病医療と腸のウェルビーイング -老化負債返済・幸福寿命延伸を目指して-」

東京科学大学湯島キャンパス1号館西9階特別講堂

2025年3月28日(金)16:00

2025年3月28日、慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科名誉教授・予防医療センター特任教授の伊藤裕先生をお迎えし、第9回ウェルビーイングラウンジ「メタボリックドミノの未病医療と腸のウェルビーイング~老化負債返済・幸福寿命延伸を目指して~」を開催しました。

伊藤裕先生は、臓器同士が関連して疾患が広がるという臨床概念「メタボリックドミノ」を世界で初めて提唱されたことで知られ、日本内分泌学会代表理事、日本高血圧学会理事長、国際高血圧学会副理事長などの要職を歴任されています。また、「いい肥満、悪い肥満」「幸福寿命;ホルモンと腸内細菌が導く100年人生」「老化負債:臓器の寿命はこうして決まる」など、一般向けの著書も多数執筆されています。さらに、食を通じたウェルビーイングの実現を目指して「日本最適化栄養食協会」を設立され、現在は理事長として、最適化栄養食の認証制度の運営にも携わっておられます。

今回の講演では、「食」と「栄養」の視点からウェルビーイングを多角的に捉え、幅広いお話しをいただきました。

  • 日本の百寿者の特徴

2007年生まれの子供の半数が100歳に到達すると予測される“人生100年時代”を見据え、加齢と日常生活への支障程度に関する研究が紹介されました。人々は年齢による健康状態の変化によりいくつかのサブグループに分類され、中でも男性の一部には生涯を通じて高い自立度を維持するグループの存在が示されました。百寿総合研究センターの調査として、百寿者に共通する特徴として「よく食べられること」と「風邪を引かないこと」、さらに糖尿病の罹患率が低いことなどが紹介されました。

  • 健康状態と「ゆらぎ」

 複雑系において、ある安定状態から別の安定状態に状態遷移する直前に特有の「ゆらぎ」が現れます。人の健康状態も同様に、健康あるいは病気の状態にあるときはエネルギー的に安定しており、大きな変化がない限り状態は保たれます。一方、未病状態は両者の間にあり、状態が不安定で、些細なきっかけで健康状態から病気状態へ遷移する可能性が高まります。この「未病」というゆらぎの状態を、メタボリックドミノの観点からも、いかに早期に捉えるかが重要であり、腸と腎臓の関係を含め、数多くの基礎的研究、臨床的研究の結果を交えて解説されました。

  • エピゲノム変化と老化負債

 生命維持の過程で受ける外的・内的刺激により遺伝子に損傷が生じ、その修復の際にエピゲノム変化が起こることで、遺伝子発現に変調が生じるというメカニズムが説明されました。生物学的年齢と暦年齢、見た目とエピゲノム年齢、さらに各臓器の年齢と「メタボリックドミノ」との関係について示されました。そして、この“老化負債”を返済するためには、「食」「運動」「マインドフルネス」が重要な要素であることが、最近の研究成果とともに紹介されました。

いずれのテーマにおいても、伊藤先生は豊富な基礎データに基づき、大胆かつ体系的な枠組みを提示され、私たちも多角的な視点から多くの示唆を得ることができました。非常に魅力的で刺激に富んだご講演でした。

講演後には約1時間のディスカッションが行われ、参加者から多くの質問や意見交換がなされ、講演内容をさらに深めるとともに、議論は未来の「食」「健康」「社会」にまで広がり、終始和やかで活発な雰囲気の中、有意義な時間となりました。

貴重なご講演をいただきました伊藤先生に、心より御礼申し上げます。